成年後見

 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある人には、家庭裁判所に申し立てることにより、成年後見人を選任してもらえます。

 成年後見人が選任されると、被後見人の財産管理や身上監護を行います。

保佐

 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である人には、家庭裁判所に申し立てることにより、保佐人を選任してもらえます。

 保佐人が選任されると、被保佐人は、保佐人の同意を得ないと借金したり不動産を処分したりできなくなります。

補助

 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である人には、家庭裁判所に申し立てることにより、補助人を選任してもらえます。

任意後見

 精神上の障害が出る前に後見人候補者と契約をしておき、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況になった時に、後見人に財産管理等をしてもらう制度です。

 任意後見契約は公正証書で行う必要があります。

 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況になった時は、本人、任意後見受任者等の請求により家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。任意後見人は、任意後見監督人の監督のもと、後見事務を行います。

 契約により、自分の信頼できる人に後見人になってもらえるメリットがあります。

平成26年4月24日名古屋高裁判決

 認知症を患った高齢者Cが駅構内の線路に立ち入り、列車と衝突して死亡した事故につき、鉄道会社がCの妻Aと、子Bに対して損害賠償請求した事案です。

 名古屋高裁は、別居していた子Bについては監督義務者等には該当しないから本件事故による損害について民法714条に基づく賠償責任を負うものではないと判示しました。しかし、同居していた妻Aについては、監督義務者に該当するとし、「Cが日常的に出入りしていた本件事務所出入口に設置されていた事務所センサーを作動させるという容易な措置を採らず、電源を切ったままにしていたのであるから、Cの監督義務者としての、一人で外出して徘徊する可能性のあるCに対する一般的監督として、なお十分でなかった点があるといわざるを得ない。」と、監督義務違反を認めました。

 Aに少し酷な気もしますが、判決は「Cは、認知症を患った後においても、鉄道の線路に入り込んだり、無断で他人の土地や建物に入り込んだことがなかったし、平成18年12月の徘徊後において、外出時に、電車に乗ろうとしたり、H駅方向に行こうとしたりしたこともなかったのであるから、AがCについて、Aらの知らないうちに一人で外出して徘徊した場合に、鉄道の線路内に入り込むような行動をすることを具体的に予見することは困難であったものというほかない。」として、民法709条に基づく損害賠償責任は認めていません。

 また、鉄道会社の安全確保義務違反は認めませんでしたが、「民法714条により監督義務者等が負う損害賠償責任は、加害行為者としての責任無能力者に対する損害賠償責任を否定することの代償又は補充として、被害者の保護及び救済のために認められたものであり、無過失責任主義的な側面があり、責任無能力者の加害行為によって生じた損害についての代位責任的な面のあるものであることを考慮すると、監督義務者等が、責任無能力者の加害行為について故意又は過失があって、同法709条により損害賠償責任を負う場合と異なり、同法722条2項に定める被害者に過失相殺事由が認められない場合であっても、同項に体現されている不法行為法における損害の公平な分担の精神に基づき、裁判所は、責任無能力者の加害行為の態様、責任無能力者の資力、責任無能力者と監督義務者等との身分的又は社会的な関係(監督義務者等が責任無能力者の推定相続人であるか否かなど)、監督義務者等の責任無能力者に対する監督状況などの加害者側の諸事由と、被害者の被った損害の性質・内容・程度と被害者が受けた影響、責任無能力者と被害者との関係などの被害者側の諸事由とを総合的に勘案して、監督義務者等が被害者に対して賠償すべき額を、監督義務者等と被害者との間で損害の公平な分担を図る趣旨の下に、責任無能力者の加害行為によって被害者が被った損害の一部とすることができるものと解するのが相当である。」とし、Aが賠償責任を負う額は鉄道会社の損害の5割と判断しています。

 

最高裁平成28年3月1日判決

 名古屋高裁平成26年4月24日判決につき、最高裁が逆転判決を出しました。

 「精神障害者と同居する配偶者でああるからといって、その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。・・・

 法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり、このような者については、法定の監督義務者に準ずべき者として、同条第1項が類推適用されると解すべきである(最高裁昭和58年2月24日は判決)。

 その上で、ある者が、精神障害者に関し、このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは、その者自身の生活状況や心身の状況などとともに、精神障害者との親族関係の有無・濃淡、同居の有無その他の日常的な接触の程度、精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情、精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容、これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して、その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである。」

 として、配偶者を法定の監督義務者に準ずべき者には当たらないと判断しました。